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伝統の空き缶壁画 平成から令和に『いくべぇ!』

 浪岡高校伝統の卒業制作、空き缶壁画。350ml缶2万1千個を繋ぎ校舎屋上から吊り下げます。大きさは縦9m×横21m。新聞等でよく取り上げられており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
 歴代30回目、そして新時代の令和を迎えて1回目という記念の年に取材させていただきました。
 当日、「どのようなデザインなのだろう?」「吊るす方法や込められた思いは?」とワクワクしながら、しっかりと記録しなければと少し緊張しながら、取材へ出発しました。
 浪岡高校に到着し玄関に入ると、早速壁画の伝統がよく分かる展示が沢山あります!
 その一部ですが、歴代の壁面の写真や、過去作品のミニチュアまであります。

 生徒達の活動を拝見する前に、壁画の歴史をご存知という長谷川先生や、今回全体を総括された3学年主任の宮本先生から沢山のお話を伺うことができました。

【壁画の歴史について】
 初代壁画は、平成2年度に制作されました。ある学級が文化祭展示に作った壁画で、校舎3階分の高さがあり、正方形だったそうです。今より小型ですが、躍動感が感じられ元気を貰えます。地域からも好評で、翌年から3学年の卒業制作となり伝統が始まりました。
 それから30年…。当時の生徒の中には今ではお子さんが高校生という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

【空き缶について】
 当初は生徒達でリヤカーを引き、近隣の駅等から回収して歩いたそうです。市販されている缶の色には偏りがあるので、赤、黒、白は特に不足しがち。必要に応じて色を塗っていました。
 今では、地域への回覧で呼びかけると4月から8月にかけて校門前に設置した回収かごに住民の皆さんが持って来てくれます。洗浄にも協力的で助かっているそうです。また、最後は福祉協会に寄付しリサイクルするため、苦労は増えますが色は塗らなくなりました。

【テーマの決め方について】
 地域の皆さんに喜んでもらえるよう、地域にちなんだテーマを選びます。
 ここで大事、且つ、難しいポイントが①これまで使われていないキャラクターで最近活躍しているもの、②色合い、です。缶の在庫を踏まえてみんなで決め、先生がキャラクターを使うための許可を得ます。今では、「使ってもらえて嬉しい」と喜ばれるようになったそうです♪さすが、人気のイベントですね。

【デザイン作りについて】
 具体的なデザインは、代表生徒が担当します。
 原画作成後は、先生も加わり設計図を作ります。エクセルを使い、1セルが1缶を表す縦70セル×横300セルの表で、配色や色毎の必要個数をデータ化します。数を入力すると対応した色に変わる計算式を利用していました。設計図の一部がこちらです⇒

【作業工程について】
 当初は卒業制作として3学年だけが制作を行っていましたが、今では生徒数が減少し全校で協力しています。2019年度の生徒数は、1年生36名、2年生60名、3年生52名です。
 主な担当:1年生 洗浄
       2年生 穴あけ、色分け、個数管理
       3年生 針金通し、吊り下げ
 大量の缶は、空き教室に保管されています。
 3年生による針金通しは夏休み明け。放課後の3日間程で一気に繋ぐと伺い「2万1千個をたった3日程で!?」とびっくり。更に、就職面接の練習と並行しながら行うということで、短期勝負のスピーディーな作業に取材陣は顔を見合わせ驚きました。

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 取材1回目(8月29日)は、針金通しが始まって2日目でした。
 宮本先生に体育館へ案内していただくと徐々に聞きなれない音が聞こえてきます。
…『ガラガラ』『ジャラジャラ』『ギー!』…かなりの音量です。
 3学年の生徒や先生が集まる体育館に入ると、広い床一杯に缶が敷きつめられて並んでいます。

 まだ途中ですが、これほど多くの缶が並んでいるのは初めて見ました。そして、2日目にしてここまで出来ていることに再び驚き。それもそのはず、生徒達は、独特な音やにおいと暑さの中、一心不乱にどんどん作業を進めています。
 15班に分かれ1班1連ずつ仕上げていきます。1連は、缶70個×20列です。
 具体的な作業の流れをご紹介します。

①針金の準備
 なが~い針金を支柱に結び付け、缶を通せるように伸ばします。

②缶のプルタブ外しと穴開け
 宮本先生手作りの穴開け装置で、缶底の中央に穴が開けられていきます。

③缶の準備
 必要な缶を自分の班の元へ運びます。

④缶を針金に通す
 1列ずつ設計図を見ながら、色や数を間違えないように、缶を通していきます。
 ここで缶の数を間違えてしまうと、一度針金から外してやり直しになります。色のデザインが細かい列は特に集中して作業をしなければなりません。生徒同士で確かめながら進めます。

⑤缶を寄せる
 缶をある程度通したら、列の奥へと寄せます。1列全て通し終えたら数を確認。

⑥一番下を固定                        ⑦完了
 割り箸を針金で固定し留めます。                20列分全て通し1連を完成させ
 これで、吊るしても落ちません。                外に吊るす準備OKです。

 生徒達は、声を掛け合いながら協力し、自分の役割に徹していて、見事な連携プレーでした。宮本先生も「1、2年生にはこのような姿は見られない。さすが3年生です!私は何もしなくて大丈夫です。」と、生徒達の成長ぶりに嬉しそうな表情で様子を見ていらっしゃいました。
 この日の取材はここまで。次回の完成する日を楽しみに、一度学校を後にしました。

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 取材2回目(9月5日)。
 この日は私達の他にも取材陣が沢山訪れていました。注目度の高さを感じます。1連毎に缶がずらりと並んでいる体育館で待機していると、生徒達がやってきました。しかし、前回よりも人数が少ない様子。一体、どのように屋上まで運ぶのでしょうか。

①ブルーシートで包む
 1連を1枚のブルーシートで包みます。空き缶は潰れやすいので注意します。
 「ゆっくり!優しく!」という先生の声は、祈るようです。
 缶の下にブルーシートを滑りこませ、のり巻きのように全体を包みます。

②運ぶ
 まずは体育館から廊下へ→→→→→→→→→階段を上がり2階へ→→→→→→→→→缶は平行に!カーブはゆるやかに!

→→窓をくぐらせ玄関屋根上へ→→→→→外で待機している生徒へ渡します。
                   4階屋上には引き上げ班が待っています。

③引き上げ
 玄関屋上でロープを取り付けます→→→→→屋上から男子軍が力一杯引き上げます→→→
 ロープの先は屋上へ繋がっています。左右平行になるよう息を合わせて・・・

→→上まで引き上げ支柱をフックに乗せれば、1連の設置が完了!!!

 この流れを、15連分繰り返します。この段階で初めて絵が見えてくるのです。
 「もう文字が読めるよ!」等と生徒の喜ぶ声が聞こえ、私達も嬉しくなると同時に完成への期待が膨らみます。
 繊細な空き缶は運ぶ間にいくつか潰れてしまいます。できるだけ綺麗にするために作業中常に周りを見て息を合わせる必要があり、生徒や先生の声が飛び交っていました。

 振り返ると体育館での作業中もしっかりと役割分担がなされ、自然と協力していました。ひとつの壁画には、地域住民、全校生徒、教職員の力が結集しています。
 そして、作業をすること1時間ほど。全ての作業が終わり、改元を記念するおめでたい壁画が、迫力満点で姿を現しました。
 テーマは、青森県のゆるキャラ「いくべぇ」。青森県と北海道道南地域を旅し、その魅力を伝える妖精です。愛らしいいくべぇを中心に色鮮やかなデザインとなっています。暑い夏、時折吹く風で爽やかになびいていました。すると、なんと本物のいくべぇが登場!

 長い道のりだった制作をやり遂げいくべぇと触れ合う生徒達は、ニコニコ笑顔。高校生らしい晴れやかな光景が広がっていました。

 最後は、有名な青い缶のスポーツ飲料で乾杯!
 この時の缶は、来年以降後輩達に受け継がれます。
 お話を伺うと「ずっと一緒に頑張ってきた仲間といい思い出ができた。」と話してくれる生徒が多く、原画を担当した生徒も、「プレッシャーが大きくて大変だったけれど友達に喜んでもらえて嬉しい。」と、友達を想いながら達成感を噛みしめている様子で、私達も温かな気持ちになりました。

 浪岡高校で30年間受け継がれてきたこの活動は、思っていたよりも大規模で、みんなの熱い想いが詰まった取り組みでした。

 学生時代、大イベントを共に成し遂げた仲間や思い出は、一生大切なものになることでしょう。この思い出を胸にこれからも頑張ってほしいと、心から思う取材となりました。
 浪岡高校の皆さん、取材にご協力いただきありがとうございました。